戦後の混乱期に酒造業に着手
初代から継承「感謝と真心」


遠浅の海に無数の大小の岩が転がる絶景、日本の渚百選にも選ばれている伊良部島佐和田の浜のほとりに、株式会社渡久山酒造(代表取締役社長・渡久山毅)の酒蔵があります。1948(昭和23)年に林業や海運業を営む実業家であった渡久山知章氏によって創業されました。佐和田の集落に建つ豪壮な事務所を兼ねる住宅に、渡久山酒造の取締役専務の研悟さん(42才)を訪ねました。



取締役専務の渡久山研悟さん

研悟さんによると、約600年の歴史を持つ泡盛は、琉球王国時代の17世紀以降、首里三箇(さんか)と呼ばれる赤田・崎山・鳥堀のみに酒造がされていました。実際には宮古や八重山など離島を含めて各地に密売され、また各地で米や芋を原料に密造されていました。19世紀半ば頃からは規制が緩和され、宮古の五箇村では5軒につき1軒の酒屋がおかれました。
先の大戦で沖縄の泡盛工場のほとんどが攻撃で破壊され、泡盛づくりに欠かせない黒麹菌も消滅の危機にさらされました。アメリカの施政権下で酒造りは禁止されていたが、イースト菌などを使って各地で密造酒がつくられていました。食糧難で米を原料にあてる余裕はなく、芋や糖蜜、ソテツなど発酵するものであれば手当たりしだい使われました。こうした密造酒が横行するなかで、1946(昭和21)年4月、米軍政府は正規の酒造所の必要性を認め、これに従って官営の5つの酒造所が造られました。ここから本格的な泡盛の復興が始まりました。
少年時代に父親と粟を原料とした酒造りを経験したことがあった知章氏は、当時の「宮古民政府」から酒造免許を取得し伊良部佐和田に創業します。当時は各集落の雑貨屋などで大きな甕(かめ)に泡盛が貯蔵され、量り売りが行われていました。造られた酒を瓶詰にする以前は、知章さんの妻・カネ子さんが酒の入った甕(かめ)を頭上に乗せて、遠く3~4キロ先の雑貨屋まで配達していたようです。
創業以来、地元に根差し地域貢献を念頭に「感謝と真心」をモットーとして、甘くて口当たりの優しい風味を追求してきました。そのこだわりの製法は二代目の知照氏、今の代表取締役社長で三代目毅氏へと受け継がれました。毅氏は伊良部農業協同組合の組合長も務めた、地域では名前の広く知られた人物です。

二代目の遺言を胸に刻み
研悟さん家業継承を決意


毅氏の次男の研悟さんが島に帰ってきたのは、2001(平成13)年のこと。1990年代から2000年代にかけて沖縄ブームが到来します。1992年の首里城復元。翌年にはNHKの大河ドラマ「琉球の風」が放映。さらに芸能界では、安室奈美恵をはじめSPEEDやMAX、DA PUMPなど沖縄出身の芸能人が次々にメディアに登場します。2000年には沖縄サミットが開催され、さらに2001年には、NHKの朝の連続ドラマ「ちゅらさん」の大ヒットで沖縄が全国的に注目を集めるようになりました。
こうした空前の沖縄ブームを迎えていた頃、研悟さんは地元の高校を卒業しアメリカン大学沖縄エクステンション校を経てアメリカに渡り、日本のアンティーク製品を輸入販売している会社に勤めます。
親元を離れ沖縄本島で過ごした学生の頃、祖父の知照氏(二代目)から遺言のように告げられた「家のことにも気持ちを向けなさい」という言葉が、研悟さんの脳裏に刻まれていました。アメリカに住んでいた頃も祖父の言葉を片時も忘れることはありませんでした。
25歳で帰郷した研悟さんは、祖父との無言の約束を想い起こし家業の酒造業に携わるようになります。これまで好きなことをさせてもらった父親への恩返し、そんな思いもあって家業を継ぐ決意をしたようです。その頃、沖縄ブームに乗って沖縄の泡盛業界も大きく成長。東京や大阪、福岡など主要都市を中心に「沖縄居酒屋」が次々に生まれたこともあって県外出荷も大幅に伸びました。

気品ある甘さ「豊年」
泡盛鑑評会で優等賞


宮古の他の大手酒造所がテレビCMなどメディアを活用した販路拡大に力を入れているなかで、渡久山酒造所はあまり目立たない存在でしたが、三代目・毅氏の広い人脈もあって伊良部島のなかでしだいに浸透し、沖縄本島の卸問屋からの注文も徐々に拡大していきます。
隆起サンゴ礁で育まれた豊かな自然のなかで、鍛錬された湿度や温度管理のもとに生み出される麹米に、ミネラル豊富な伊良部の地下水と酵母が加えられ“もろみ”が仕込まれます。もろみがフルーティな香りを放つときを見極め蒸留機に移して、常圧でじっくりと蒸留して繊細で甘みのある原酒が出来上がります。さらに熟成させることで、こだわりのある芳醇な泡盛が誕生します。5年以上熟成させた古酒「豊年」は、まろやかで気品ある甘さが特徴です。この風味の秘密には杜氏の存在が隠されているようです。長年杜氏をつとめてきた研悟さんの母・久仁子さんは、女性ならではの丁寧で繊細な酒造りを心掛けてきました。
沖縄国税事務所と沖縄県の共催で泡盛製造業の振興を目的にした泡盛鑑評会が、本土復帰の1972年から毎年開催されています。この鑑評会で渡久山酒造の「豊年」は2002年度の県知事賞・優等賞を受賞、2013年度はサシバ「瑠璃」が沖縄国税事務所長賞をしました。

 

「豊年古酒」と「ゆら」

空港ターミナル30周年機に
サシバ・シリーズ「瑠璃」


空港ターミナルでは、数ある泡盛の中で本当に美味しいものを伝えたいと、平成8年に池間酒造との共同開発で本格派泡盛・サシバ「黒」を誕生させました。サシバ「黒」は、空港限定で売り出した当初から好評な滑り出しを見せました。空港ターミナル創立30周年を機に、その第二弾として打ち出されたのが渡久山酒造所とタイアップした、サシバ・シリーズ「瑠璃」です。
「30周年の節目に大手酒造の銘柄にない、個性的な酒を掘り起こしたい」という空港ターミナルからの要望を受けて、研悟さんが提案したのは二代目から三代目に受け継がれた自慢の古酒でした。初代「サシバ」の名称「黒」に対して「瑠璃」と命名された銘柄は、その名のとおり「やや紫みを帯びた鮮やかな青」の瓶の色が特徴のひとつです。
日本の伝統色のひとつである瑠璃色の洋名は「ラピスラズリ」。アフガニスタン原産の宝石・ラピスラズリから抽出された顔料は、ヨーロッパでは「地中海を超えてきた青」ウルトラマリンブルーとも呼ばれています。
かつての「臭い、強い」というイメージの泡盛ですが、今では女性や観光客にも親しまれる酒として馴染んできました。その流れに沿って開発されたのが「ゆら」です。「雑味を取り除いてすっきり、爽やか」に仕上げてあります。サシバ「瑠璃」と同じ色で、しょうしゃな細身の瓶がそのイメージを引き立てています。



2013年度沖縄国税事務所長賞のサシバ「瑠璃」

トライアスリートの研悟さん
宮古島大会に13回連続出場


研悟さんには、もうひとつの顔があります。それはトライアスロンです。
全日本トライアスロン宮古島大会には、第20回大会から32回大会まで連続13回の出場経験があります。スイム3キロ、バイク157キロ、ラン42.195キロを1人で連続して行う過酷な競技。海外生活の経験もあり、堪能な語学を生かしてトライアスロンの国際部のボランティアに携わったのがきっかけ。隣の同級生の父親が出場している姿に触発されて練習を重ねてきました。       仕事の合間を縫って練習プログラムを組み立て、年間をとおした練習の積み重ねが満足できる結果につながりました。これまでの最高記録は10時間26分と好成績を残しています。「33回大会は何かと多忙で出場できませんでしたが、来年(2018年)は是非、出場したい」と意欲を燃やしています。
また、研悟さんは宮古島市消防団の団員や伊良部商工会青年部の部員を務めたり、地域の豊年祭や海人祭のまとめ役を任されたりするなど、地域活動にも積極的で周りの信頼を集めています。

幸運を呼ぶ瑠璃色に託す
「伝統の風味を永久に」


本土復帰から45年が経過しました。沖縄では復帰以降、本土との格差を縮めるためにさまざまな特例が講じられてきました。酒税についても復帰前の琉球政府の税率が低く抑えられていたことで、軽減措置として県内出荷分については、本土で消費されるもものに比べて軽減されています。この軽減措置は5年ごとに8回に渡り延長され、2017年5月14日に期限を迎えましたが、今回は2年に短縮され延長されることになりました。
泡盛ブームの落ち着きの顕在化や若者のアルコール離れ、酒類嗜好の多様化、県外焼酎の台頭など泡盛業界を取り巻く環境の変化もあって、泡盛消費の低迷化が懸念されています。こうした状況に対して研悟さんは「今が頑張り時。今後の経営戦略を見直してできることをしっかりこなして、代々受け継いできた伝統の風味を絶やすことがないように続けていきたい」と意欲的です。
日本が誇るブルーホールともいわれる「通り池」にほどちかい佐和田の地に誕生した渡久山酒造所。代々受け継がれた酒蔵を守ってきた人の心意気を映しかのような瑠璃色。その源泉は古代より美しい聖なる石と神聖視されてきたラピスラズリです。
神の住む夜空を切り取ったかのような煌めく聖石・ラピスラズリは、古代ローマ時代には恋人たちの愛と夢を守る石として崇められました。サシバ「瑠璃」と「ゆら」を包む“瑠璃色”には、ラピスラズリになぞらえて神と繋がり幸運を招き入れたいという、研悟さんの思いが密かに託されているように感じました。


サシバ・シリーズ「瑠璃」の瓶の色は、宝石「ラピスラズリ」の青を連想させる。
ラピスラズリは古代から聖なる石と言われ「神と繋がる」「幸運を呼ぶ」などの暗示が
秘められているという

渡久山酒造所の銘柄は、農業指導士でもあった二代目知照氏が命名した「豊年」一般酒30度(600ml、1800ml)と「豊年古酒」35度(720ml)、「ゆら」一般酒25度(720ml)